産休・育休中は収入が手当金(給付金)だけになってしまうため、フルタイムで働いていたときと比べて家計が厳しくなりやすいのが現状です。
また、休職中の税金・社会保険料周りの制度はややこしく、正しく理解しておかないと「これも支払いが必要なの!?」と慌ててしまうかもしれません。
本記事では、産休・育休中の住民税や社会保険料について解説します。
種別ごとの手続き法も解説するので、ぜひご参考ください。
もくじ
住民税は前年の1月1日から12月31日までの所得をベースに決定され、翌年1年かけて月割で給与から控除されます。
産休・育休中であっても前年に稼いだ所得に対する住民税は発生しているので、支払う必要がある点に注意しましょう。
よく「産休・育休中は社会保険料が免除されるから住民税も免除されると思っていた」という落とし穴を聞くため、事前に住民税支払い分を蓄えておくなど対策が必要です。
産休・育休中の住民税は、以下2種類いずれかの手法で支払います。(※)
普通徴収とは、市区町村から送付された納税通知書(納付書)に沿って住民税を納める手法です。
銀行やコンビニで使える振込用紙が郵送で自宅に届くので、年4回(6月・8月・10月・翌年1月)または一括で納付しましょう。
特別徴収とは、納めるべき住民税が給与から控除される手法であり、控除された金額は会社を通じて市区町村へ納付されます。
納付漏れ・納付忘れを防ぐために始まった制度なので、会社員であれば原則として特別徴収が適用されます。
「今まで銀行・コンビニ等で住民税を支払った記憶がない」という人でも、毎月の給与から住民税が控除されている場合、会社が代わりに支払い手続きをしてくれているため安心してよいでしょう。
とはいえ、育休中は休職していて給与支払いがないため住民税の控除ができず、育休中だけ特別徴収から普通徴収に切り替えるケースも多いです。
ある日突然自宅に納税通知書が届いて驚かないよう、事前に育休中の住民税支払いについて会社と相談しておきましょう。
具体的にいくら住民税を支払う必要があるか知りたいときは、住民税決定通知書(市町村民税・道府県民税 税額決定納税通知書)をチェックします。
住民税決定通知書は前年の所得から算出された住民税額が記載された書類であり、毎年5~6月頃に市区町村から会社に届きます。
1年間に支払うべき住民税の額はもちろん、毎月いくらずつ控除(支払い)が発生するかも明記されているので、先の見通しが立てやすくなります。
なお、個人事業主・自営業・年金所得者は自宅に住民税決定通知書が届きますが、例え普通徴収であっても会社員でいるうちは会社に書類が届くので要注意。
基本的に本人に控えを渡す書類ではありますが、会社が一律で保管しているケースもあるので、内容を見たいときは会社に相談してみましょう。
所得税はその名の通り「所得」に対して発生する税金であり、産休・育休中で「所得」がないときは所得税も発生しません。
産前産後休業手当金や育児休業給付金は所得に含まれない「非課税収入」であるため、支給額面から所得税が控除されることもなく安心です。
なお、「所得がない=所得税が発生しない」と自動で判定されるので、所得税の納税対象から外れるための特別な申請・手続きも不要です。
健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料から成る「社会保険料」は、産休・育休期間中全額免除されます。
休職者本人が毎月給与から控除されていた負担分だけでなく、折半して会社が支払っている負担分についても同時に免除されるので、会社にとっても申請のメリットがあるのがポイント。
免除期間は産休・育休開始月から育休終了月の前月までであり、最大で子どもが3歳になるまで免除期間を設けることができます。
なお、産休・育休中に支給されたボーナス(賞与)についても同様に社会保険料がかかりません。
社会保険料の算定基礎となるのは毎月受け取る収入のみであり、ボーナスのように変動制の高いものや不定期で支給される収入は含まれないのがポイントです。
社会保険料を免除してもらう場合、産休中は「産前産後休業取得者申出書」を、育休中は「育児休業等取得者申出書」を提出する必要があります。
提出先はいずれも所轄の日本年金機構(または所轄の年金事務所)であり、必ず会社経由で提出しなくてはいけないのがポイント。
本来は産休・育休の取得を報告するための書類ですが、同時に社会保険料免除の手続きも進行します。
また、併せて「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置(通称:養育特例)」の手続きをしてもらうことも忘れずに依頼しましょう。(※)
養育特例とは、3歳未満の子どもを養育している人の標準報酬月額が低くなった場合、子が生まれる前の標準報酬月額で将来の年金受給額を算定する制度です。
支払う社会保険料は下がった後の標準報酬月額に基づくので、少ない金額で高い年金額が受け取れる特例だと覚えておくとよいでしょう。
例えば、育休明けに時短復帰して産前より給与が下がった場合、毎月控除される社会保険料を抑えながら、産前と同じ金額を支払ったとみなしてもらうことが可能です。
「産前と同じくフルタイムで復帰したので給与が下がっていない」「むしろ産前より復帰してからの方が給与が高い」という場合、養育特例の手続きは必要ありません。
あくまでも復帰後の社会保険料に関する項目ではありますが、早い段階で提出して問題ない書類でもあるため、社会保険料免除の申請と同時に手続きしてもらうと漏れがなく安心です。
(※)日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
配偶者控除とは、生計を一にする配偶者の年間合計所得が103万円以下である場合、所得額を控除してもらえる制度です。(※)
妻が産休・育休に入って休職している場合、配偶者控除を受けられるのは配偶者である夫です。
夫が手続きをすることで夫の所得額が控除されるため、所得税・住民税など各種税金の負担を減らせます。
なお、休職する配偶の年間収入が48万円以下なら配偶者控除、48万円~133万円以下なら配偶者特別控除として段階的に税金負担が減っていくのも特徴です。
(※)国税庁「配偶者控除」
配偶者控除を受ける場合、休職している人の配偶者が職場へ「給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出します。(※)
妻が産休・育休に入る場合、その配偶者である夫が、夫の職場に対して提出する点に注意しましょう。
正確な書類名は1枚の用紙になっている「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」であり、そのうち「給与所得者の配偶者控除等申告書」と書かれている部分を漏れなく記載して提出すれば完了です。
配偶者の氏名・個人番号(マイナンバー)・生年月日・合計所得金額の見積額など記載する項目はごくわずかなので、忘れないうちに作成・提出するのがおすすめです。
医療費控除は、産休・育休の取得に関係なく受けられます。
ただし、医療費控除は税金の算定基礎となるみなし収入額を減らして税金の支払い負担を下げるための制度であり、そもそも収入が発生していないのであれば申告する意味がなくなってしまいます。
「産休・育休に入ったのが年度終わりに近いため年間所得が控除額を上回る」という場合は医療費控除を申請できますが、それ以外の場合は家族の申告に合算するようにしましょう。
ポイントとなるのは、生計同一親族であれば合算して医療費控除を受けることができる点です。
産休・育休に入る妻の年間所得が低い場合でも、妻の医療にかかったお金を夫が申告することで、夫の税金負担を下げられます。
具体的には以下の費用が医療費控除対象となっているので、妊娠・出産に関する支払いの領収書はしっかり保存しておきましょう。(※)
反対に、差額ベッド代・里帰り出産時の交通費・おむつ代やミルク代などは医療費控除の対象外です。
医療費控除は、毎年の確定申告でおこないます。
会社に年末調整してもらっている場合でも、会社が医療費の計算までして申告することはできないため、年末調整後に別途自分で確定申告する必要がある点に注意しましょう。
近年はマイナポータル連携を利用した医療費控除申告など、オンラインで手軽に手続きできる手法は増えています。
申告に含めることが可能なご家族の医療費通知情報も取得できるので、便利に活用していきましょう。(※)
産休・育休中は社会保険料が免除される他、所得税や雇用保険料も発生しないなど税金負担面では大きな優遇があります。
忘れずに手続きし、後になって「支払いが厳しい!」「制度を理解していなくて損していた!」と判明しないよう注意しましょう。
ただし、産休・育休中でも前年所得に対して発生している住民税は支払う必要があり、ある日突然納税通知書(納付書)が届いて驚くかもしれません。
事前に住民税決定通知書(市町村民税・道府県民税 税額決定納税通知書)をチェックし、いくら支払う必要があるか確認して備えておくのがおすすめです。