育休を終えて職場に復帰するとき、これまでとは違う部署や業務に配置転換されてしまったワーママは少なくありません。
会社の言い分や対応によっては、「これってマタハラ?」「もとの部署に戻してほしい」「遠回しに辞めろって言われている!?」「配置転換は拒否してもいいの?」などモヤモヤしてしまう人も多いでしょう。
ここでは、育休明けに異動させるのはマタハラや違法行為に該当するのか、配置転換を言い渡されて困ったときの対処法などを解説します。
もくじ
育児休暇からの仕事復帰前は「またこれまでみたいに仕事を頑張るぞ」と意気込むママも多いことでしょう。ところが、育休復帰が決まったママに対し、部署異動などの配置転換が言い渡されることがあります。
たとえば、営業職からデスクワークになったり、担当する仕事が雑務ばかりになったりするなど、最前線で活躍していた女性がサポート的な仕事にまわされるケースも珍しくありません。結果だけを見ると、「育休を取ったことへの嫌がらせでは」と感じてしまいますよね。
しかし、すべてのケースで悪意があるわけではありません。会社なりにまだ手のかかる子供やワーママへの負担を考え、比較的楽な仕事に異動させてくれる場合も多いのです。
忙しい部署は残業が多かったり、心身ともにハードだったりするため、子育てとの両立が難しくなりがちです。そこで、時短勤務や定時退社に対応しやすいサポート的な仕事を任せることで、復帰後のワーママに「配慮」をしていることもあります。
マタハラとは、産休や育休を取得したり、時短勤務を希望したりした女性社員に対し、会社がさまざまな嫌がらせを行うことです。マタハラは女性に身体的・精神的なダメージを与える恐れがあるだけでなく、違法行為に該当する可能性もあるため、社会的に問題視されています。
育休明けにすぐ配置転換を言い渡されると、このように妊娠や育休のことで嫌がらせをされた、マタハラを受けたと感じてしまうのも無理はありません。しかし、育休明けに配置転換されたとしても、残念ながら客観的に見て嫌がらせと判断されない限りはマタハラとは認められないのです。
そもそも、事業者には育休明けの従業員について、必要に応じて配置を配慮する努力義務があります。育児と両立しやすいように配置転換することは珍しくなく、むしろ努力義務を果たしているとも考えられるのです。
そのため、妊娠・出産を理由に嫌がらせをしたり、不利益を与えたりする目的がなく、配慮や業務上の都合で配置転換させたのであればマタハラには当たりません。
配置転換と同様に負担が大きいものといえば、転勤があげられます。県外への転勤ともなれば、家族と離れなければならない可能性もあり、「退職するのを期待しているのでは」と勘繰ってしまいますよね。
たとえ育休明けの転勤でも、配置転換と同様に、それ自体に違法性はありません。本来であれば、従業員なら転勤命令に従わなければならないのです。ただし、業務上の妥当性がない、退職させるためや報復のためなど、悪質な転勤命令の場合、従業員に多大な負担を強いるとして、裁判で転勤命令が無効と認められた事例もあります。
配置転換は、従業員にとっては負担が大きいこともありますが、企業にとっては経営上の戦略や体制変更による適材適所への人員配置など、やむをえない事情があります。
順調な経営を続けるために欠かせないことでもあるため、企業には従業員の部署異動についてある程度の権利が認められているのです。従業員としては納得しがたい部分もありますが、スムーズな経営のために行われた配置転換であれば違法行為とはいえません。
ここでは、マタハラ・イクハラに該当する事例を紹介します。「育休を取ったことへの嫌がらせで異動命令が出ているのでは?」と感じたときは、まず以下をチェックしてみましょう。
育休明けであることを理由とした不当な扱いがあったときは、明らかなマタハラ・イクハラとして認定されます。
例えば「育休を1年間取りたいと相談されたので、経営悪化等を口実に解雇した」「妊娠を聞く前は契約更新を前提にしていたが、妊娠の報告を受けたので雇い止めとした」などは明確にマタハラ・イクハラです。妊娠・出産・育児を理由としていることがポイントであり、他に説得力のある理由がないときはマタハラ・イクハラと認定されることがほとんどです。
一方、会社の経営悪化が事実でありやむを得ず解雇せざるを得ないときや、契約更新の約束を撤回しなくてはいけないのっぴきならない事情があるときは別と判断されることが多いです。特に経営悪化による判断は育休明けの人以外も含めた全従業員が対象になるものであり、誰にも等しくリスクのある項目と言えます。
明らかに不可能で嫌がらせに近い異動命令であったときは、「暗に自己都合退職をしろと言っている」「無理難題を押し付ける不当な扱いをしている」と判断できます。例えば、地方限定一般職など異動・転勤に制限のある人に対して転勤を伴う異動を命じたり、通勤に片道3時間かかる支店への異動を会社負担の引っ越しなしで命じたりするのも違法です。
そもそも、事業者は育休明けの従業員へ必要に応じた配慮をする努力義務があります。育児と両立しやすいように配置転換するのではなく、その逆で、かつ実現可能性の低い人事異動であるときは、むしろ会社側が努力義務を放棄していると考えてよいでしょう。
異動の有無と育休明けであることを関連づけた嫌がらせがあったときも、マタハラ・イクハラに該当します。
極端な例を出すと、「育休を取って周りに迷惑をかけたのだから〇〇支店で修行してこい」「育休を取って仕事に穴を開けるような人材を花形の営業部門に置いておくことはできない」と名言された場合です。まさに妊娠・出産・育休などを理由とする不利益な取扱いであり、正当性はありません。
配置転換は企業の権利ではありますが、好き勝手に異動させられては従業員の負担が大きくなってしまいますよね。育休明けに一方的に配置転換を言い渡された場合、拒否はできるのでしょうか。
まずは配置転換について「業務上の必要性があるか」「配置転換の目的は妥当か」「従業員がどれほど不利益をこうむるか」などの点をチェックしましょう。これらのポイントで悪質性が高いと判断されれば、配置転換を拒否できる可能性があります。
なお、企業は配置転換によって育児に支障をきたさないよう配慮したり、原則として育休明けは元の部署や元の部署と同等の役職・給与に戻したりすることが法律で定められています。
しかし、現実には育休中にほかの従業員が仕事を引き継ぐなどして元の部署に戻れないケースもありますし、配置転換そのものが違法とされているわけでもありません。企業が順調な経営のために下した命令であり、減給などの不利益がなければ、実際には配置転換を拒否することは難しいでしょう。
参考文献:育児・介護休業法 不利益取扱いの禁止
参考文献:男女雇用機会均等法 不利益取扱いの禁止
違法性がないとはいえ、育休明けの配置転換は納得できないこともありますよね。このような場合は、配置転換に明らかな不利益がないかどうかチェックしましょう。
たとえば、正社員から非正規社員へ変更された、減給・降格された、自宅から非常に遠い職場に異動させられたなどの場合、不利益に該当する可能性が高いです。不利益と認められれば配置転換を拒否できるので、地域を管轄する労働局など公的機関に相談してみましょう。
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なるべく異動に応えたいと思っていても、通勤時間や家族のライフスタイルによっては「物理的に無理」「どうしても異動に同意できない」と感じることもあるでしょう。ここでは、育休明けの異動に同意できないときの対処法を解説します。
まずは育休明けの異動命令が出る前、できる限り休職しているうちから、異動・配属先の希望を伝えておくのが理想です。「休職前と同じ部署で復職したい」「異動すること自体は構わないが子どもの送迎対応があるため片道1時間以内で通勤できる支店にしてほしい」など、伝え方もさまざまです。
もちろんあくまでも「希望」であるため必ずしも願いが叶えられるとは限りませんが、事前に従業員のニーズを知っておくだけでも異動案を考えやすくなるのも事実です。特に「この条件であればそもそも就労を継続できない」というラインがある場合は、明確に伝えておきましょう。
異動できない理由を伝えて、配置見直しを依頼することも可能です。本格的な人事通達が出る前(内示の段階)であれば、再考案が間に合うかもしれません。物理的な理由(保育園のお迎えに間に合わない、など)を優先的に伝えたうえで、「異動に応えたいがどうしても難しい」というスタンスにしていきましょう。感情的な理由や会社の都合を考えず自分の好き嫌いだけでの理由になってしまうと、却って心情を損ねてしまう可能性があります。
とはいえ、あくまでもできるのは配置見直しを「依頼する」ところまでであり、実際の人事権は会社が保有しているため100%お願いが聞き届けられるとも限りません。どうしても難しいときは断られてしまう可能性もあることを知っておきましょう。
どうしても同意できない場合は、速やかに転職を検討するしかありません。物理的に不可能でなければイチかバチか異動命令を受け入れて異動・転勤する方法もありますが、「保育園の送迎に間に合わない」「どう頑張っても始業時間までに会社にたどり着けない」という物理的な制限があるときは就労の継続は不可能です。また、会社なりに配慮して異動を出している場合でも、自分の希望とのミスマッチが大きすぎて在籍し続ける意味を見いだせなくなったタイミングも、転職時と判断してよいでしょう。
なお、異動の内示から実際の異動まで間もない企業も多く、転職するのであればスピード勝負になることが多いです。すぐにでも転職活動をスタートし、ブランクなく新しい会社に入社できるよう対策していきましょう。
最後に、育休明け異動が理由で転職する際の注意点を解説します。マタハラ・イクハラに該当しない異動命令であれば「承諾する」または「転職する」しかなくなってしまうため、判断を早めにするのが大切です。
育休明け異動が理由で転職するときは、とにかくスピード転職を意識する必要があります。異動の内示から実際の異動まで間もない企業では、「2ヶ月以内に転職先を決めないと行く先がなくなってしまう」というケースも起こり得ます。
ギリギリまで粘ってから一度退職しその後再就職を目指すことも可能ですが、無暗にブランクばかり空いて先の見通しが立たないことや、無職期間中は収入がなくなってしまうことを考えると、あまりメリットがありません。出来る限りスピーディーな転職を目指し、無理だとわかった段階で即座に転職活動を始めるのが理想です。
今後同じような理由で転職しないためにも、大きな異動・転勤のない会社から優先して応募することもおすすめです。特に小さな子どものいる家庭では、子どもの転園・転校をなるべく避けるため夫婦どちらかが同じ場所で働き続けられる環境にするのが理想です。ママが異動・転勤してもパパが帯同できるとは限らないと考えれば、初めから大きな異動・転勤のない会社に転職してしまうのがよいでしょう。
応募の段階で異動・転勤の可能性や異動する場合の赴任地なども確認しておけば、入社後になって大きなミスマッチが判明することもありません。
急ぎの転職ではついキャリアプランの想定がおざなりになってしまいがちですが、応募先でのキャリアプランはしっかりシミュレーションしておきましょう。5年後10年後に自分がどこでどんな仕事をしているかイメージできれば、それに伴うスキルアップのイメージややるべきことも見えてきます。
特に異動が予想される企業の場合、自分が応募する職種・支店以外の情報もチェックしておきましょう。
応募先のロールモデルや異動事例を確認しておくのもおすすめです。ずっと同じ地域で働き続けている人、全国津々浦々渡り歩きながらキャリアアップしている人、自分と同じ立場で働いているワーママ、女性役員など、ロールモデルの参考となる人は多いです。自分が理想としているロールモデルでなくても一度はチェックしておくことで、将来的にどのような可能性があるか視野を広げることにもつながります。
育休明けに異動を命じられる場合、既に復職の準備が整っていて保育園の合否が出ていることがほとんどです。一度合格した保育園を蹴ったとしても次に確実な預け先が見つかるとは限らないため、基本的に保育園・小学校に影響しないよう転職するよう意識しましょう。子どもの預け先を確保しておくことが仕事との両立に必要な第一歩であり、既に保育園・小学校を利用している兄弟・姉妹への配慮も求められます。
まずは通勤時間・就業時間・曜日など基本的な条件のすり合わせから始め、無理なく働ける応募先をどんどんリストアップしていくのがポイントです。特に入社直後から時短勤務できる会社であれば、転職後のワークライフバランスも充実します。
自分がマタハラと感じても、客観的に見ると決してそうとはいえない場合もあります。育休復帰後の配置転換がマタハラかどうか、また辞令を拒否できるかどうかは、まさにケースバイケースです。
感情に任せて企業を訴えると思わぬ労力をついやす恐れもあるため、まずは冷静になって就業規則や法律を調べましょう。そのうえで、やはり理不尽だと感じたときは、企業や労働局に相談することをおすすめします。
育休復帰時の配置転換や体制変更で理不尽な思いをしているのであれば、転職を視野にいれるのも解決方法のひとつです。
それらがマタハラに該当しなくても、
など、現実的にその会社で働くことが難しいと感じる場面はあるでしょう。
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育休復帰の一方的な配置転換は、子育てに理解がない社風が原因であることもありえます。ワーママの働き方やキャリアに理解のある会社で、やりがいのある仕事をしながら仕事と育児を両立させませんか。