「正社員なのに、ある日突然パートに降格させられてしまった」というような、信じ難いことが起こってしまったら、いったいどうすればよいのでしょうか。
「正社員は法律で立場が守られているはずなのに、なぜ?」と思いますよね。でも、怒りたくなる気持ちをまずは抑えて、「どう対処したら一番よいのか?」を冷静に考えてみましょう。
ここでは、正社員なのにパートにされたときの対処法を解説します。
もくじ
まず、「会社側が一方的に正社員をパートに降格させるようなことは、法律的にできない」ということを、理解しておきましょう。
労働契約法第八条には、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と記されています。
つまり、社員本人の合意がなければ、正社員からパートに変更することはできないのです。たとえ会社の就業規則に「使用者は労働者に対して、正社員からパート社員への降格を命じることができる」というような文言が書いてあったとしても、法律の方が優先します。
また、育休明けの人は、育児介護休業法でも正社員からパートへの契約変更の強要を禁じています。育休復帰時や復帰後のタイミングで、正社員からパートになるよう命じられた人もいるかもしれませんが、違法にあたります。
正社員からパートに降格を言い渡された際、つい動揺して頭が真っ白になってしまうかもしれません。曖昧な回答やその場をやり過ごすような答え方をしてしまうと、思わうぬ落とし穴にはまる可能性があるので注意しましょう。
なかには「会社に言われてしまったら、もう認めるしかない」と思い込んで、会社から差し出された雇用契約書に署名してしまう人もいます。
でも、いったん正社員の雇用契約を解除してしまうと、もう二度と正社員に戻ることはできません。パートに降格したくなかったら、絶対に契約に同意しないことです。
一番理想的なのは、会社側と温和に話す機会をもって、双方が合意できる方法を見つけることです。
会社が正社員からパート契約にしたいと思っている事情をまずは聞いてみましょう。経営難によるやむなき選択かもしれませんし、自分が気付かなかった業務上の落ち度を指摘されることもあるかもしれません。
そして、それに対して自分はどう思っているのかを伝え、お互いの妥協点・改善点が見つかれば、それがベストの方法です。
もし今まで良い人間関係を築いてきた職場なら、その良好な関係をできる限り壊さずに解決するのが、最も望ましい解決方法でしょう。
信頼できる上司や仲間がいれば相談した方がよいですし、労働組合のある会社なら、組合を通して話し合いの場をもつという方法もあります。
では、会社側に一方的に正社員からパートへ雇用契約を変更されてしまったら、いったいどうすればよいのでしょうか。
問答無用で正社員からパートに降格を言い渡すような場合は、もはや会社側の善意は期待できないので、契約変更の撤回を求める「申込書」(通知書)を会社に送付するしかありません。
そのときに大切なのが、普通郵便ではなく内容証明郵便で送付することです。そうすることで、いつ誰がどのような内容の文書を会社に差し出したかが証明されるので、会社側も「弁護士を雇ったかもしれない」と懸念し、そのプレッシャーによってパートへの変更を断念する可能性もあります。
契約変更の撤回を求める申込書を送っても解決できなかった場合は、いよいよ労働局に紛争解決援助の申立てを行うことになります。
それによって労働局から会社に助言や指導が入り、不当な契約の変更を撤回できるケースもあります。ただし、ここまでくると、会社側とは完全に紛争状態に入ります。
労働局でも解決できなかった場合は、最終手段として弁護士に相談し、調停や裁判を行うという方法も残されています。
調停や裁判は長期にわたることも多く、気力も体力もお金も使うので、その点は覚悟する必要があるでしょう。
労働局への紛争解決援助の申立てや、弁護士を通しての調停・裁判の申立ては、法律的に考えて最も有効な解決手段です。なぜなら、法律的には社員の側が圧倒的に有利だからです。
ところが、法律の問題よりもっと怖いのは、そこまでいくと社内で孤立する恐れがあることです。上司や同僚から、冷たい視線を浴びせられることがあるかもしれません。本人には非がないのに理不尽な仕打ちですが、これは日本特有の風土で仕方のない現実でもあります。
申立てしたこと自体を後悔する可能性があるなら、最初から会社との話し合いレベルに留めておいた方がよい場合もあります。
「家族を養わなくてはいけないから、自分はとことん会社と闘う!」という人は、それなりのつらさがあることを承知の上で紛争に臨みましょう。
正社員からパートにされて退職することになった場合は、会社都合の退職にすることはできるのでしょうか。会社都合の退職のほうが辞める側にはメリットが多いため、会社にはしっかり確認しておきましょう。
「いろいろ考えたけれど、やっぱり別の会社で正社員の職を探そう」と決めたときは、失業給付をもらいながら転職活動を行うことになります。
そのときに、会社都合で退職をすると1週間の待機期間後に失業手当を受給できますが、自己都合で退職すると、そこからさらに3ヶ月も待たなければ受給できません。そのため、社員側としては「会社都合で辞めたい」と考えるのは、当然のことです。
ところが、「無理やり正社員の職を奪われるのだから、これは紛れもなく会社都合!当然会社都合で退職できるだろう」と思っても、実際にはそうはいかないのが現実です。
日本企業の多くは、社員が会社都合で辞めると事業支援のためのさまざまな助成金が申請できなくなるなどの理由から、会社都合の退職を嫌がる傾向にあるのです。
会社都合で退職したいなら、自分からはっきりとその意思を伝えることが大切です。そうしないと、会社側はほぼ間違いなく自己都合退職で処理しようとします。
「会社都合で退職できますか?」とはっきり質問し、それについて会社側が納得しなければ、話し合うことになるでしょう。
突然正社員からパートにされたら、どうしたらよいかわからなくて、パニックになってしまうことがあるかもしれません。
でも、まずは「会社が正社員を強制的に降格させることはできない」ということを念頭において、落ち着いて行動することが大切です。
紛争に至るのは最後の手段として用意しつつも、信頼できる上司や同僚、キャリアコンサルタントなどに相談しながら、長い目でみて自分が気持ちよく働き続けられるような方向で調整できると良いですね。
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