出産や育児をきっかけに、責任ある仕事や昇進のチャンスから遠ざけられてしまう現象は、「マミートラック」と呼ばれて問題視されています。
働く女性のキャリアが途絶え、企業の人材活用や教育コストの増加などに影響があるとして、マミートラック対策は急務となりました。
本記事では、企業でマミートラックが問題視されている理由を解説します。
ライフステージが変わっても、意欲やスキルに応じて平等にキャリアを築ける時代に移りつつあるため、マミートラック対策としてご参考ください。
マミートラックとは、主に出産・育児をきっかけに女性社員がキャリアの中心から外れ、補助的な業務や昇進・昇格と無縁のポジションへと配置される現象を指します。
1980年代のアメリカで使われ始めた言葉で、育児中の社員が本来の能力を発揮できないことが課題であるとして、日本でも問題視されるようになりました。
ダイバーシティ推進や人的資本経営が重視される今の時代において、「ライフイベントとキャリアの両立を支援できていない」という課題は、企業のブランドや競争力にも影響を与えかねません。
だからこそ近年はマミートラック対策に力を入れている企業が増えており、転職市場でも高い注目を集めています。
21世紀職業財団では、子供のいるミレニアル世代(1981年から1990年代中頃までに生まれた人たち)を対象に、夫婦のキャリア意識に関する調査を実施しています。
調査結果では、第一子出産後の復職でマミートラックを感じた人は全体52%を占めることがわかりました。
引用:21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究(2022年)」より
「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もなかった」という状態は、まさにマミートラックにあると言えます。
マミートラックが起こるのは決してレアケースではなく、業種・職種関係なく多くのワーママにのしかかる可能性があると理解しておきましょう。
引用:21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究(2022年)」より
同調査では、第一子出産後にマミートラックに入った人が、現在の仕事やキャリアについてどう感じているかも調べています。
「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もなかった」と出産後のキャリアについて回答した人は、70%が現在も「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もなかった」と感じていることがわかりました。
つまり、一度マミートラックに入ってしまうと抜け出しにくく、その後のキャリアアップが難しくなる現状が伝わります。
もちろん職場との相談や転職を機にマミートラックから抜け出した人も少なくありません。しかし、マミートラックに入った以上、何かしらのアクションを起こさないとそのまま継続になりやすい点に注意しましょう。
厚生労働省では、民間企業のモデルケースを参考にしながら女性活躍を以下3つのステージに分けています。(※)
マミートラックは特に「第2ステージ」で発生しやすいと言われているので、確認してみましょう。
第1ステージ | 子どもが生まれると女性が働き続けるのが難しく、働き続けるにしても家庭を犠牲にせざるを得ない状況 |
第2ステージ | 子育て支援が整い、子育てをしながら誰もが働き続けられる状況 |
第3ステージ | 男女ともに育児・介護などをしながらもしっかりキャリアアップでき、仕事で会社に貢献できる状況 |
第1ステージも深刻な状態と言えますが、この場合女性の多くは仕事を続けることができず、退職して専業主婦になります。
働く女性の課題である「マミートラック」も必然的に起こらなくなるので、問題が表面化しないフェーズと言えるでしょう。
第2ステージになると子育てをしながら誰もが働き続けられるようになりますが、本質的なキャリア形成ができている状態ではありません。
あくまでも「働けている」という状態に留まるためマミートラックが起きやすく、収入のためだけに働く形になりやすいのがデメリットです。
第3ステージになると男女ともに育児・介護などをしながらもしっかりキャリアアップできるようになり、仕事で会社に貢献することも可能になります。
ワーママでも責任のある仕事を任せてもらえるなど、キャリアアップにつながる実績が作れるのがポイント。
また、柔軟な働き方が認められていることも多いためワークライフバランスも整いやすく、無理せずキャリアアップを目指すモチベーションに変換できます。
(※)内閣府「新たな生活様式・働き方を全ての人の活躍につなげるために~職業観・家庭観が大きく変化する中、 令和モデルの実現に向けて」
「自社で似たようなことが起きていないか」「過去に以下のような理由で転職を決めたワーママがいないか」など、自分事としてチェックしてみましょう。
時短勤務を選択した社員が昇進・昇給の対象外となることは、マミートラックの典型的な事例です。
多くの企業では、「時短勤務=育児や家庭の事情で業務にフルコミットできない」という誤解や先入観が存在します。
業務上の配慮や最適な人材配置を理由に、時短勤務をしている社員には重要な業務や責任を与えない傾向が強くなると、マミートラックが定着するので注意しましょう。
結果、育児中の社員が「業務の幅を狭められた」「キャリアアップが難しくなった」と感じる原因になります。
時短勤務でも責任のある仕事を任せたり、成果や貢献度に基づく評価制度を整備したりするのが急務です。
関連記事:育休明けに異動を言い渡された!マタハラになる?拒否してもいいの?
時短勤務やフレックスタイム制度を利用している社員に対し、「結果を出しても昇進・昇格できない」というマミートラックが発生している企業も多いです。
昇進や昇格の基準が「勤務時間」や「フルタイム勤務」を前提にしていると、時短勤務やフレックスタイム制度では評価されにくくなるので注意しましょう。
仮に優れた結果を出しても、昇進に必要な基準を満たしていないと判断されてしまい、社員から不公平な人事評価と思われる可能性があります。
成果を出しても報われないと感じると、社員のモチベーションは低下します。
業務の効率や仕事への満足度も低くなり、優秀な人材の流出につながるリスクも出てきます。
関連記事:育休明けに基本給や等級が下げられた!違法にあたる?対処方法についても解説
「責任の大きい仕事=長時間勤務や高い業務負担が伴う仕事」という認識がある企業では、時短勤務や柔軟な働き方をしている社員に対して、重要な仕事を任せないことがあります。
育児や家庭の事情を理由に評価されず、キャリアが停滞してしまうことが多くなり、典型的なマミートラックとなって現れるので注意しましょう。
産前にバリバリ働いていた女性社員や、会社に貢献したいと考えている女性社員を責任の大きい仕事から離してしまうと、かえって社員のモチベーションは下がります。
「配慮=排除」にならないよう、本人との対話を重視したマネジメントが求められます。
関連記事:育休明けに正社員からパートにされた!これって違法?辞める場合は会社都合にできる?
育児などの事情から時短勤務やリモートワークを選んでいる社員を、スキルアップやキャリア形成につながる場から外してしまうのも、マミートラックのひとつです。
「研修の参加が難しいだろう」「負担をかけたくない」といった配慮のつもりが、社員の可能性を奪ってしまっているケースも珍しくありません。
本来、教育や研修は幅広い社員に対し平等に機会が提供されるものです。
参加しづらい研修システムになっていないか、時短勤務の社員でも参加しやすい時間帯に開催されているかなど、自社の制度を見直してみましょう。
以下に当てはまる要素があるときは、知らないうちにマミートラックが発生しているかもしれません。
マミートラックが起こる大きな原因として、ワーママへの過剰な配慮が挙げられます。
「無理をさせたくない」「大変そうだから責任のある仕事は避けよう」といった配慮のつもりでも、結果的にマミートラックになっているのであれば意味がありません。
周りが「時短勤務だし大変な仕事は任せない方がいい」と思っていても、社員本人がもっとやりがいをもって働きたいと思っている事例も多いです。
上司や同僚が勝手にブレーキをかけ、キャリア機会を制限することにつながっていないか、冷静に確認することが大切です。
実際には限られた時間のなかで効率よく働ける社員であっても、管理職の一方的な思い込みで業務やキャリアに制限をかけてしまうことも多いです。
特に、「時短勤務=フルタイム勤務者に比べて力を発揮できない」「柔軟な働き方をしている=責任のある仕事は無理」という先入観が根強い管理職は注意しましょう。
本人が望む挑戦やキャリアアップの機会が奪われ、大きな機会損失になる可能性があります。
マミートラックが起きる原因のひとつに、不十分な人事評価制度があります。
育児中の社員に対する評価基準を明確に設定していない場合、育児や家庭の事情に合わせた評価が適切に行われません。
時間ベースでの評価になりがちで、成果や実力が反映されにくくなるでしょう。
結果、時短勤務や柔軟な働き方をしている社員だけが十分に評価されない、深刻なマミートラックが発生するのです。
特に、成果主義が不十分で、実際に成果を上げている社員が評価されない企業では注意が必要です。
成果に基づく明確な評価基準を導入し、時間に関係なく貢献度を評価できるよう、企業内部での対策も欠かせません。
キャリアパスが不明確な場合、社員は自分の将来の目標や進むべき道を見失いがちになります。
「社会にワーママのロールモデルがいない」「10年後20年後に社員がどうなっているかイメージを抱けない」という企業では、特にマミートラックが深刻化するでしょう。
「時短勤務だと昇進できない」「これからどのようにキャリアアップすればいいのかわからない」といった不安も生じてしまい、モチベーションや生産性も下がります。
誰もが理解できる明確なキャリアパスを設けるなど工夫し、育児中でもキャリアアップを実現できる職場環境を作ることが重要です。
業務が属人化していると、「あの人がいないと仕事が回らない」「あの人でないとわからない仕事がある」という状況が発生します。
ノウハウやナレッジを共有する社風でない場合に属人化が起きやすく、チームではなく個人で仕事をするのが当たり前になります。
結果、「ワーママ社員が急に仕事を休むと業務が止まる」「頻繁に休む可能性があるワーママ社員には簡単な雑務しか任せられない」とマミートラックも発生しやすくなるのです。
ワーママや時短社員がプロジェクトリーダーなどのポジションを任されることも少なくなり、キャリアの停滞が起きるでしょう。
反対に、属人化やマミートラックを予防したい企業 代替要員が充足している企業の場合、「人」ではなく「チーム」で仕事を回す意識が根付いているため、ワーママ社員にも仕事を任せやすくなります。
もしワーママ社員が仕事を休んでも他のチームメンバーが代替してくれるので、お互い様の精神で仕事を円滑に回せるようになるのです。
なお、厚生労働省は「仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主」に向けて助成金を出すなど、後押しを始めています。
属人化や、属人化を原因とするマミートラックの予防に役立つ制度であり、安心して職場復帰できる環境が整います。
参考:育児休業や短時間勤務の利用期間中の業務代替を支援します|厚生労働省、両立支援等助成金のご案内|厚生労働省
ワーママ社員と管理職や同僚とのコミュニケーションが不足していて、仕事の進め方や役割の期待が不明確になるのも、マミートラックの原因のひとつです。
例えば、ワーママ社員が自分の希望やキャリア目標を上司に伝える機会が少ない場合、上司はその社員の実際の希望や努力を理解できません。
結果、社員が意図していない仕事や役割を与えてしまったり、逆に過剰な配慮をして仕事を奪ってしまったりする事態が発生します。
また、「時短勤務の人に仕事を任せすぎると自分にしわ寄せがくる」など、同僚社員からの偏見や誤解が生まれることも多いです。
マミートラックだけでなく、社員全体に対する業務の割り振りが適切でなくなるなど、組織全体の問題に発展することもあります。
以下でマミートラックならではの具体的なデメリットやリスクを紹介するので、自社で似たようなことが起きていないか確認してみましょう。
産後の女性社員がマミートラック状態になる企業では、キャリア歴の長いワーママの離職率が高くなります。
ワーママ社員自身は「できればこの会社で長く働き続けたい」と思っていても、昇進・昇給の可能性がほぼ見込めない企業に居続けることはできません。
やりがいや評価や、マミートラックのない企業を探して転職するケースが相次ぎ、長年かけて育てた経験豊富な人材の流出につながります。
最初は社員1人が離職するだけで小さなダメージに感じるかもしれませんが、やがて「ワーママ社員が全員いなくなった」「キャリア歴の長い中堅社員がいなくなった」という事態になりかねません。
結果、女性管理職になれる層が不在になり、ジェンダーギャップの固定化に発展することもあります。
マミートラックは、育児中の社員だけの問題ではありません。
先輩社員であるワーママがマミートラックに苦しんでいるのを間近に見ている若い女性社員にも影響を与え、将来的な不安や失望感から離職につながるケースもあります。
「この会社で働き続けたら私も同じようにキャリアが止まるのでは?」「出産して昇進できなくなるなら今のうちに別の会社へ…」と考えるのも自然でしょう。
また、「うちの会社は結婚・出産したらキャリアが止まる」というネガティブな印象が広まり、女性社員全体のモチベーションやエンゲージメントの低下につながるリスクがあります。
優秀な若手女性の流出・管理職候補層の不足・ダイバーシティ推進の停滞など、人材戦略に幅広い影響を与えます。
マミートラック真っ只中にいるワーママ社員が必ずしも離職するわけではありませんが、モチベーションやエンゲージメントが下がる可能性は高いです。
「自分はもう期待されていない」「どうせ評価されないなら頑張ってもムダ」という思考に陥りやすくなり、モチベーションが大きく低下してしまいます。
これは育児中の社員本人だけでなく、周囲の社員にも悪影響を及ぼします。
また、同じチームで働くメンバーがやる気を失うとチームの士気も下がり、連携がうまくいかなくなるリスクも高まります。
マミートラックは個人の問題にとどまらず、チーム全体の連携や生産性に悪影響を与える可能性があります。
例えば、マミートラックによりワーママ社員が責任の軽い仕事や単純作業に偏ると、他の社員に負担が集中します。
チーム内で不公平感や不満が生まれやすくなり、協力体制が崩れる原因になるかもしれません。
また、ワーママ社員がプロジェクトの中心から外されることで、チームの意思疎通や情報共有がスムーズにできなくなる点も懸念されます。
「誰が何を担当しているのかわからない」「この件は話していいのかわからない」など、コミュニケーションロスが発生し、生産性の低下に直結するので注意しましょう。
実際にマミートラックにより転職を決意した人の声として、以下のような体験談が寄せられています。
詳しい体験談は、以下の記事で紹介しています。
マミートラックに塩漬けされ転職・退職した体験談!降格や仕事外しに悩むワーママの悲痛な声
マミートラックで自己肯定感を下げてしまうのは、キャリアにもメンタルにも悪影響です。
日々精力的に仕事をこなしつつ、育児や家事も幅広く楽しむ余裕がほしいときは、今の環境が本当にやりがいと安心を持って働ける場所か再検討してみましょう。
再びマミートラックに悩むことがないよう、転職先企業の選定や自分のキャリアプランづくりは慎重におこないましょう。
応募先企業の人事評価制度をチェックし、働き方を問わず正当に評価してくれる会社を探しましょう。
例えば、以下のような人事評価制度を導入している企業であれば、時短勤務でも評価される可能性があります。
その他、評価基準がオープンになっていて自分に対する評価に納得を得やすい企業や、定期的に評価面談があり、自分のやるべきことを明確にしやすい企業もおすすめです。
「企業から何を求められているか」「どうすれば貢献できるか」を可視化し、働きぶりや成果を正しく評価される企業が、まさに「正当に評価されやすい企業」と言えるでしょう。
また、本人の希望があれば責任あるポジションへアサインする企業など、人材配置に工夫を凝らしている企業も増えています。
結果さえ出していれば時短勤務の人でも昇進・昇給できるのであれば、自然とモチベーションも上がりそうです。
社内コミュニケーションが盛んな会社は、働く上での安心感・チームワークの取りやすさ・風通しの良さに直結します。
短時間の1on1ミーティングが頻繁に開催されている企業や、ランチミーティングなど時短勤務の人でも参加しやすいコミュニケーション機会が豊富な企業であれば、社内で情報格差が生じることもありません。
ワーママが自分の希望を会社に伝えやすくなるだけでなく、上司や同僚から求められていることもリアルにキャッチできるので、自分の働き方や方針づくりに役立ちます。
たとえ働く時間が短くても、社内コミュニケーションが取れていれば居心地の悪さを感じることはありません。
「ワーママは昇進したくないだろう」という思い込みによるマミートラックも起きにくく、フラットに働ける職場環境が整います。
社員属性を調査し、ワーママが多数活躍している会社を探すのも近道です。
ワーママが多いということは産休・育休などの制度が整っていて働きやすい証拠であり、かつ「活躍中の」ワーママが多いことは女性のキャリア確立がしやすい証拠でもあります。
例えば、フルタイムのワーママも時短勤務のワーママもマミートラックに陥らず、精力的に働いている企業を探してみましょう。
自分らしい働き方を模索できる企業であるとわかるため、自分のキャリアプランや努力の方針さえ確立していれば、理想的な仕事ができそうです。
社内のロールモデルも整っているので、キャリアアップを希望したときのルートが開けているのもポイント。
時短勤務でも「ポジションアップに挑戦したい」と表明し、結果を出している人にはチャンスが与えられます。
ワーママ社員に限らず、女性社員全般のロールモデルやキャリアプランも確認しておきましょう。
女性社員がキャリアの節目をどう乗り越えたか、リアルな働き方や女性管理職の比率がどうなっているか、具体的に可視化しておけば入社後のミスマッチもなくなります。
もちろん、時短勤務をしながら昇進した人の事例や、ライフイベントを経た後のキャリア支援について調べるのも効果的です。
とはいえ、企業の公式HPや口コミサイトだけでロールモデルの存在まで情報収集するのは難しいこともあるでしょう。
転職エージェントなど企業の内部情報に詳しいプロに頼り、表面上には現れない情報までキャッチしておくのがおすすめです。
「子育て中はローペースな働き方になっても仕方ない」と思おうとしても、マミートラックが深刻であればあるほど、将来的なキャリアの不安も大きくなります。
せっかく仕事をするのであれば、やりがいやキャリアアップを見出せる仕事の方が良いと考える人は多く、マミートラックをきっかけに転職を検討する人は少なくありません。
時短正社員のワーママ向け転職エージェント「リアルミーキャリア」では、ワーママがやりがいや好待遇を実現できる転職活動をサポートしています。
ワーママ転職や時短正社員転職に強いリアルミーキャリアならではのノウハウで、効果的な転職をお手伝いできます。
自分の強みを活かして働きたい方や、ワークライフバランスもキャリアも両立させたい方は、お気軽にご相談ください。